1.郊外の静寂にぽっかり空いた地下への入口
宇都宮駅からバスで30分、今日の目的地は「大谷資料館」だ。
ただの資料館とあなどるなかれ。この場所は、もともと大谷石を採掘していた巨大な地下空間を、そのまま丸ごと施設化した異形のスポットである。

周辺一帯は「大谷石」の名産地として知られ、石の街・宇都宮を象徴する場所でもある。
住宅、蔵、駅舎。あらゆる建築に使われてきたこの石材は、近代建築の巨匠F.L.ライトが旧帝国ホテルにも使用したことで一躍脚光を浴びた。
だが、今回の主役はその“大谷石”そのものではなく、「掘り終わったあとの虚無の空間」の方である。
入り口にたどり着くと、まず視界に飛び込むのは圧倒的な岩壁だ。
まるで地層がむき出しになったような景観なや思わずテンションが上がる。
脇にひっそりとあるトイレさえ大谷石製。

胸を高ならせながらチケットカウンターのある建物に向かった。
2.冷気が導く非日常の世界
資料館の入口を抜けると、空気が一変する。
冷たい。そして静かだ。
足音だけが妙に響く通路を抜け、いよいよ地下へと降りていく。

採石のためだけに掘り進められた空間は、設計された建築とはまったく別の理屈でできている。
意図的な美しさではなく、採掘という目的の結果作り出された空間が圧倒的な迫力を生んでいる。
人工でありながら、まるで古代遺跡のような荘厳さ。
合理性が極まると、時に美を超えてくるのだ。

手すりは最低限。滑落注意のちょっとスリリングな見学だ。
ライトアップされた壁面が、どこか舞台装置のようにも見えるのがまた不気味でいい。
3.コンサートや展示会にも使われる地下神殿
地下空間の一部はインスタレーションアートが設置されている。

それらは目立ちすぎず、あくまで石の風景に寄り添う存在だ。光と影がつくる静謐な演出。展示物はあるが、この空間そのものが最大の展示であることがよく伝わってくる。
最深部にはコンサートにも使われたステージ風の空間もある。
結婚式が行われたという話も聞くが、こんな冷気の中で指輪交換をするなんて、なかなかにロックだ。

産業遺産であり、巨大なアートでもあり、ある種の宗教建築ともいえる地下空間はどこか非現実的で、幻想的な空気に満ちている。
4.人間の営みがつくった巨大な「虚」の空間
一般的な建築とは真逆のベクトルで生まれた空間が、これほどまでに建築的なのが面白い。

高さ、奥行き、陰影。どれもが圧倒的スケールで迫ってくる。
人間が石を掘りつづけた結果、そこにできたのは「無」であり「虚」であるのだが、私たちはなぜかそこに意味や意図を見出してしまう。

機能も目的も失った空間が、今は名所として人々を惹きつけている。
このアイロニーがたまらなく素敵だ。
5.冷たい石の迷宮でから再び地上へ
地下神殿のような空間をたっぷり歩いたあと、再び階段を上って地上へ戻る。
そのとき、日差しが妙に暖かく、まぶしく感じられた。
たった数十分地下にいただけなのに、地上が別の世界に思える。この反転こそが、大谷資料館の大きな魅力の一つだ。

宇都宮の郊外に存在するちょっと変わった資料館。
アクセスに手間はかかるが、その分、訪れた者にしか得られない体験をできた。
【大谷資料館】
オススメ度:★★★★★
住所:栃木県宇都宮市大谷町909
アクセス:宇都宮駅からバスで約30分
開館時間:
4月~11月 9:00~17:00
12月~3月 9:30~16:30
休館日:
4月~11月 無休
12月~3月 火曜、年末年始
予算目安:大人 800円
公式ウェブサイト:http://www.oya909.co.jp/
※記事執筆時点での情報

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