1.駅前に並ぶ謎の煙突。その正体は全部トイレ
大井町駅は最近では駅前の商業施設大井町トラックスで注目を浴びているが、駅前を歩いていると、線路沿いに妙な建物群が現れる。今回紹介するのはこの「大井町駅前公衆トイレ」だ。

細長い箱が6つ、バラバラに並んでいて、一見すると小型倉庫か現代アート作品にも見えるが、実はこれ全部トイレなのだ。

2020年に完成した比較的新しい公共トイレだが、最近の東京は妙にトイレ建築が熱い。
例えばヴィム・ヴェンダースが映画PERFECT DAYSを制作したことで一気に知名度が上がった渋谷区の「THE TOKYO TOILET」をはじめ、各地に実験的な公衆トイレが各地で作られている。
この大井町のトイレも、そんな公衆トイレブームの中で生まれたかなり攻めたトイレである。
2.男女別トイレを一度バラして考え直す
このトイレの面白いところは、従来の男子トイレ・女子トイレ・多目的トイレという構成を一度全部解体して再考している点だ。
こうしたトイレの男女の区分けは近年度々ニュースになって時には炎上するが、ここ大井町駅前トイレの6棟ある個室はそれぞれ機能が違った個々の棟となっているのが特徴だ。

車椅子対応、オストメイト対応、ベビー設備、着替え台、パウダールームなどが個別に分散されている。
利用者は、「男だからここ」「女だからここ」「障害があるからここ」ではなく、自分の用途に合わせて個室を選ぶ。
商業施設や公共施設でよくある「誰でもトイレ」はある意味機能を全部詰め込んだトイレだが、この6棟のトイレは分散される設計になっているので、利用者の集中も避けやすい。

分棟は駅前で毎日大量の人間が使うという現実をちゃんと踏まえているのが実に合理的だ。
さらに天に伸びるような形状もトイレの臭気を地上に伝わりづらくする工夫なのだ。
3.今までにないトイレ体験
実際に中へ入ると、さらに印象が変わる。
まず明るい。トップライトから自然光が落ちてきて、従来の暗い・臭い・怖い公衆トイレ感はかなり薄い。

個室ごとに天井高も違っていて、一番高い棟は12m近くあるらしい。
見上げると細長い煙突のような空間になっていて、これが自然換気も兼ねている。

山手線や京浜東北線の音が聞こえる中で白い箱型建築が並んでいる風景はかなり異様だが、目立っているようで目立っていない不思議な塩梅のデザインがユニークだ。
普通、公衆トイレは街の隅に追いやられがちであるが、この建築は逆に駅前風景にさり気無く添えられている。
4.地味だけど多様な考慮が結晶したトイレ
このトイレを詳しく調べてみると、トイレ建設における施工面もこのデザインに影響しているとのこと。
つまり線路脇なので大掛かりな足場を組みにくく、工期短縮も必要だったらしい。

そこで採用されたのがこの分棟方式。各個室を工場で製作し、現場で設置する方法だ。
つまりこのトイレはある種組み換え可能なユニット群として構成されている。
公共インフラを柔軟に更新するという思想はかなり現代的だ。
まだできたばかりのトイレではあるけれど、都市の変化に応じて交換・更新される建築としての面白さもあるのだ。
5.人間の生活に欠かせないトイレという最小空間
正直、訪れる前はよくわからない煙突、そしてそのあとは意識高いデザイントイレかなくらいに思っていた。
だがこの建築は単にオシャレなだけではない。

使い方、管理、施工、ジェンダー、バリアフリー、都市景観まで含めて、現代の公共トイレをどうつくるかの視点が垣間見れる人間の生活に欠かせない都市インフラなのだ。
しかも、空間としては人がひとり用を足せるだけの最小空間の集まりだ。
東京という大都市において、生き物に必要不可欠な排泄行為を通じて、社会の今とこらから濃く詰まった場所がこの大井町駅前公衆トイレだった。
【大井町駅前公衆トイレ】
オススメ度:★★
住所:東京都品川区大井1-2-6
アクセス:大井町駅から徒歩約1分
予算目安:0円
※記事執筆時点での情報


