1.住宅街に突然現れるド派手な住宅
三鷹の住宅街を歩いていると、急にド派手なアパートが姿を現す。
極彩色の壁、カラフルな球体、ランダムな窓。
遊具のようでもあり、巨大な現代アートのような建物だが、この建物が今回の目的地である「三鷹天命反転住宅」だ。

この変わった建物の設計を手掛けたのは芸術家の荒川修作とマドリン・ギンズ。
2005年に完成した全9戸の集合住宅は、見た目のインパクトだけなら東京でもかなり上位クラスの不思議建築である。

だが、この建築がヤバいのは外観だけではない。
この住宅、正式には「死なないための住宅」という思想で作られた建築なのだ。
2.常識から解き放たれた住みにくい住宅
住戸内部へ入ると、身体感覚が呼び起こされる。
まず床が平らではない。
微妙に傾斜しているのだ。
しかも床材はゴツゴツしていて歩きにくい。

さらにキッキンを中心に球体の部屋があったり、透明な円柱のシャワーブースがあったり、仕切りの一切ないトイレがあったりと外観のインパクトを裏切らない空間構成に驚かされる。
一般的な住宅は、いかにストレスなく快適に過ごせるかを追求する。
特に現代の住宅はある意味偉大な発明であった「nLDK」という規格が大勢を支配し住宅のスタンダードとなっている。

だが、この建築は違う。
油断するとつまずくし、バランス感覚も使う。
実際に少し体験した限りは住みにくいことこの上ないが、その分普段意識していなかった感覚が呼び起こされる。
この住宅は収納も普通ではない。
家具を置く前提ではなく、天井のフックに物を吊るして生活する。

この住宅では規格化された「型」を一度丸々解体して、そらでも人間の生活に必要な要素を再構成しているのだ。
3.身体ごとの感覚を取り戻した時、世界の認知が変わる
この建築には「In Memory of Helen Keller」という副題が付いている。
目の見えないヘレン・ケラーが水の感触を通じて世界認識を広げたエピソードをヒントに、それぞれの人ごとの身体感覚を呼び覚ますことがテーマになっているらしい。
ある意味この住宅は、住む人間を覚醒させる装置として作られている。
均質で安全で合理的な空間というのは、特に近現代社会が追い求めてきたひとつの理想ではあった。
水平垂直で整理された空間。
効率化された生活。
身体を使わなくても成立する環境。

20世紀の人たちが夢見た桃源郷のような世界がいざ実現していくと、そんな空間に対する疑問がわいてくる。
つまり規格化・均質化・効率化された住宅での暮らしはある意味でディストピア的な、死に近い状態ではないかと。
だから天命反転住宅では、身体を常に刺激する。
転びそうになる、違和感を与えるといったことはきっかけに過ぎない。
住みにくい住宅であることが重要なのではない。

住みにくさという制約を制約と感じさせるのは、人間を均質化なものとして規定した現代の常識だ。
身体ごとの感覚を取り戻した時、世界への認知が変わる。
それこそ目の見えないヘレン・ケラーがそうであったように。
そうして生を再発見することが死なないための住宅という意味であり、天命を反転することだと私は受け取った。
4.アート作品では終わらないことろが面白い
この建築が面白いのは、単なる展示作品ではないことだ。
住宅なので実際に人が住んでいる、または事務所のように使われていることが面白い。
これはかなり重要なポイントだ。
美術館のインスタレーションなら、ユニークな空間体験で終わるが、実際の住宅になると話が変わってくる。
毎日起きて、歩いて、料理して、風呂に入る。その全てを、この奇妙な身体感覚の中で行うことになる。
普通の住宅に慣れ切った感覚からするとかなり衝撃的だ。
実際、見学中も「これ本当に住めるのか?」という感覚がずっとあった。
特に仕切りのないトイレでは音や匂いが漏れてくるだろう。

荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所は見学した住戸と別の住戸を事務所としているが、音の問題は音楽を大音量で流すことで対応しているらしい。
5.人間の生と可能性を身体で考えさせる住宅
最近の住宅は、とにかく便利で快適だ。
段差を消し、温度を一定にし、効率よく暮らせるよう整理されている。
もちろんそれ自体は悪いことではない。
だが三鷹天命反転住宅は、「貴方は本当に生きている感覚はあるのか?」という問いをかなり強引に、しかし実物の住宅で問いかけてくる。
そのコンセプトに言葉では「その通りだ!」という返答はできても、実際の身体を伴った生活としてアンサーできる準備は今の私にはできない。
そのギャップもまた考えさせられる。

三鷹天命反転住宅は単なる奇抜建築ではなく人間の生と可能性を身体で考えさせる、かなり危険な住宅だった。
この建物では荒川修作+マドリン・ギンズ東京事務所が定期的に見学会を開催している。
事前予約制であるが実際に内部を見学したりプランによっては宿泊体験もできるようなので、気になった方は是非体験してみてほしい。
【三鷹天命反転住宅】
オススメ度:★★★★
住所:東京都三鷹市大沢2-2-8
アクセス:武蔵境駅からバス+徒歩で約20分
予算目安:3000円(見学会)
備考:住宅なので見学の際は公式HPから要申込
※記事執筆時点での情報
B級スポット・珍スポットランキング
にほんブログ村
↑珍スポット・B級スポットのブログランキングに参加しています。よければクリックして応援してもらえると嬉しいです。


