1.横浜鶴見に残る時間が止まった駅
今回訪れたのは横浜市鶴見区にあるJR鶴見線の国道駅だ。

駅名だけを見ると少し味気ない印象だが、一歩足を踏み入れるとそのイメージは一変する。
この駅は1930年の開業当時から使われているコンクリート駅舎がほぼそのまま残り、昭和初期の空間へ入り込んだような風景が広がっている。
ホームへ降り立つと、まず目に入るのは分厚いコンクリート造の構造体だ。
周囲には新しいマンションや住宅が建っているものの、この駅だけは別の時代に取り残されているような妖しい雰囲気が漂っている。

この駅を設計したのは「コンクリート博士」とも呼ばれた明治生まれの技術者 阿部美樹志。
鉄筋コンクリート建築の発展に大きく貢献した人物であり、その技術が約100年経った今も現役で使われ続けていることに驚かされる。
現代の駅では当たり前になったエレベーターやエスカレーターはなく、ホームからは重厚なコンクリートの通路を通って改札へ向かう。
この時点で、普通の駅とは違う空気が漂い始める。
2.無骨だけれど美しい異空間
階段を降りて改札へ向かう構内には低い天井に無骨な内装、光と影が交錯する空間が広がっている。
ホーム間を繋ぐブリッジからは連続するアーチが並び、その両側には古い店舗がまばらに残された高架下空間が垣間見られる。

自動改札機もない無人の改札をでて近づいてみると、現在は営業していないが看板や建具は昔の面影を色濃く残し、歩いているだけで昭和の映画に入り込んだような気分になる。
しかも完全な廃墟ではないところが面白い。
板で塞がれた店舗がある一方で、窓には明かりが灯り、人の気配を感じる場所もあるのだ。

かつては駅と商店街が一体となり、多くの人で賑わっていたことが想像できる空間だ。
コンクリートの無機質な質感と、人々が積み重ねてきた生活の痕跡。
この二つが混ざり合っているからこそ、国道駅には独特の魅力が感じられるのだ。
3.100年という途方もない時間が凝縮された空間

高架下ではアーチが一定のリズムで連続した美しい構造がむき出しになっている。
アーチのトンネルをでると半円形の窓などのモダンなデザインを見ることができる。

しかしさらに近づいて観察すると、割れたガラスや古い看板、新しく取り付けられた設備など、異なる時代の痕跡が何層にも重なっている。
躯体自体はほとんど姿を変えていないが、使われ方だけが少しずつ変わってきたことに約100年という時間の長さを実感させられる。

単なるレトロ建築ではなく、「時間の積み重ね」そのものを体験できる場所なのである。
4.現代と過去とが交錯するトンネル
続いて反対側の出口へ歩いていく。
薄暗い高架下を抜けた瞬間、目の前には現代の住宅街が広がる。
さっきまで昭和の世界にいたような感覚だっただけに、そのギャップは大きい。
ちなみに国道駅という名称は、現在の国道15号と鶴見線が交差することに由来している。
今では街の中に溶け込み埋もれている構造物となっているが、駅が誕生した当時は鉄道と国道こそがこの地域の象徴だったのだろう。

駅が古いという見方を逆転すると、周囲の街が約100年かけて変化してきたということが感じられるのが面白い。
5.濃密な空間をたっぷりと堪能
帰りは再び暗いトンネルを通ってホームへ戻る。

誰もいない改札、コンクリートに響く足音、静まり返った通路。その雰囲気は観光地というより、昭和を生きた人々のがそのままパッキングされた都市遺構だ。
最後にホームを見上げる、重厚なコンクリート構造とは対照的に、軽快な鉄骨アーチが屋根を支えている。
その対比まで含めてこの駅は実に見応えがある。
横浜からすぐの場所にありながら、ここまで濃密な昭和の景色を体験できる場所はそう多くない。
建築好きはもちろん、レトロスポットや廃れた商店街、ディープな街歩きが好きな人にもぜひ訪れてほしい一駅である。
【国道駅】
オススメ度:★★★★
住所:神奈川県横浜市鶴見区生麦5-12
予算目安:0円
※記事執筆時点での情報
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